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東京地方裁判所 平成元年(特わ)154号 判決 1989年7月21日

本店所在地

東京都港区赤坂二丁目八番一四号

コクエイ商事株式会社

(右代表者代表取締役 黒木勝治)

本籍

東京都千代田区九段北四丁目二番地四五

住居

同都新宿区住吉町二番一八-一一〇二号

会社役員

黒木勝治

昭和九年五月一八日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人コクエイ商事株式会社を罰金二六〇〇万円に、被告人黒木勝治を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人黒木勝治に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人コクエイ商事株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都港区赤坂二丁目八番一四号に本店を置き、不動産の売買及びその仲介等を目的とする資本金二〇〇〇万円(昭和六二年九月三日以前の資本金は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人黒木勝治(以下、被告人黒木という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人黒木は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の仲介手数料及び企画設計料を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和五八年一〇月四日から同五九年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億三二二五万八一八二円であった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年一一月三〇日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九二八五万二五〇三円で、これに対する法人税額が三七九八万七七〇〇円である旨の虚偽の内容の法人税確定申告書(平成元年押第四二四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四一六二万五七〇〇円と右申告税額との差額一億三六三万八〇〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告会社代表者及び被告人の当公判廷における供述

一  被告会社代表者及び被告人の検察官に対する供述調書三通

一  若林好之及び岡野誠の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  手数料収入調査書

2  受取利息収入調査書

3  五番街売上調査書

4  仲介手数料調査書

5  企画設計料調査書

6  受取利息調査書

7  営業権償却調査書

8  賃借権償却調査書

9  創立費償却調査書

一  麻布税務署作成の証明書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  登記官吏作成の商業登記簿謄本

一  押収してある法人税の確定申告書(一部は写し)一袋(平成元年押第四二四号の1)

(補足説明)

弁護人は、本件起訴にかかるほ脱税額の一部につき犯意を争い、手数料収入及び受取利息の計上漏れに対応する税額六八七万八八〇〇円は過失にもとづく申告漏れであり、営業権償却及び創立費償却の否認分に対応する税額一四七二万二〇〇〇円は専門的知識の欠如による見解の相違に帰因するものであるから、いずれもほ脱の犯意を欠くものとしてほ脱税額から差し引かれるべきものであって、結局、本件ほ脱税額は正規の法人税額一億四一六二万五七〇〇円から申告額三七九八万七七〇〇円及び犯意を欠く右税額合計二一六〇万八〇〇円を控除した八二〇三万七二〇〇円であると主張するので、この点について検討するに、収税官吏作成の各調査書、被告人黒木の検察官に対する各供述調書、被告人黒木の当公判廷における供述等の関係証拠を総合すれば、被告人黒木は簿記学校で簿記を学んだ経験があり、従来から、伝票類の処理を含め被告会社の経理事務を自ら担当し、右伝票をもとにして税理士事務所に総勘定元帳や法人税確定申告書の作成を依頼していたこと、本件法人税確定申告書も右のようにして作成され、被告人黒木がその内容を確認したうえ、被告会社及び代表者の各記名印並びに代表者印を押捺し、経理責任者欄に署名押印していること、被告人黒木は一貫してほ脱税額の点を含め本件犯行を全面的に認めていることが明らかであり、右事実によれば、被告人黒木が判示の本件ほ脱税額一億三六三万八〇〇〇円の全額につきほ脱の犯意を有していたことを推認するに十分である。

(法令の適用)

被告会社の判示所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用し、その所定金額の範囲内で被告会社を罰金二六〇〇万円に処する。

被告人黒木の判示所為は、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期の範囲内で被告人黒木を懲役一年に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、不動産の売買等を業とする被告会社の代表者である被告人黒木が、被告会社の業務に関し、所得を秘匿し、虚偽過少申告により一億三六三万円余の法人税を免れたという事案であるが、そのほ脱額は多額で、ほ脱率も七三・一七パーセントに上ること、犯行の動機に特段同情の余地がないこと、所得秘匿の態様も、架空の領収証を入手して仲介手数料及び企画設計料を架空計上し、伝票の一部を抜き取って売上の一部を除外するなどの工作を自ら敢行したもので悪質であること等の事情にかんがみると、被告人らの刑責を軽く評価することはできない。もっとも、本件においては、被告人らが本件犯行を全面的に認め、反省の態度を示していること、ほ脱にかかる税額につき、修正申告がなされ、本税、附帯税の納付が完了していること、被告会社には前科はなく、被告人には宅地建物取引業法違反罪による罰金刑一回のほかには前科、前歴がないこと、その他被告人の年齢、経歴等被告人らのため有利に斟酌すべき情状もある。

以上のような本件の動機、態様、結果、犯行後の状況、被告人の年齢、経歴等の諸般の情状を総合考慮すると、被告会社に対しては主文掲記の罰金刑に、被告人黒木に対しては主文掲記の懲役刑に、それぞれ処するのが相当であり、なお、被告人黒木に対しては、前記の情状に照らし、今回は自力更生を期して右刑の執行の執行を猶予することとした。

(求刑 被告会社につき罰金三〇〇〇万円、被告人黒木につき懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田輝明)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和58年10月4日

至 昭和59年9月30日

コクエイ商事株式会社

<省略>

別紙2

脱税額計算書

自 昭和58年10月4日

至 昭和59年9月30日

コクエイ商事株式会社

<省略>

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